墨をつけ刻む

墨をつけ刻む

一言で木造と言っても木造の家の建て方は伝統軸組構法、在来軸組工法、ツーバイフォー工法、ログハウスというように様々だ。多くの木造の場合、機械で木を加工するプレカットが主流だが、わが社が行う工法は伝統軸組構法は木の摩擦によって組み込む仕口ばかりなので、機械の加工は不可能だ。このページは、伝統軸組構法の建て方までの「墨付け」と「刻み」を仕事順に紹介する。

自然乾燥

材を乾燥させる方法は、自然乾燥と人工乾燥がある。人工的に乾燥させる理由はもちろん工期を早める為の行為だが、自然界にない温度で乾燥させる為、木の細胞は傷み長持ちしない。その上、乾燥の為に化石燃料を使う為環境の負荷が多く、工期を早める為に犠牲にすることが多い。その点、伝統軸組構法は、日や雨に当てて木のアクを抜きながら、長い時間を掛けじっくりと乾燥させることで、重要な木の油分を抜くことなく、自然に負荷を掛けずに乾燥させる方法だ。

自然乾燥 屋根下に積まれた杉と桧

人工乾燥材 杉梁丸太

看板板(図板)間竿

看板板とは、大きな板に示された図面。間竿とは家の間の長さを示した木の定規。大工はこの看板板と間竿を元に墨付けを行う。

看板板、平面図と足固め差鴨居

看板板、小屋伏せ図

看板板、屋根のむくり図
間竿

木造り

約一年間、屋外で乾燥された材は、作業場内に持ち込まれ、直角二面カンナと自動カンナに掛けられる。家を垂直に建てるには墨付けの精度が大事で、高精度を求めるならば高精度の加工が必要だ。

自然乾燥された材木
直角二面カンナ盤 縦軸と横軸の刃で材の直角が決まる
加工された材は、出番が来るまで空気に当てずに保管される。

仕口

仕口とは材と材を継ぎ、組むためにつくりだされる伝統技法である。和小屋をもち柱を軸とした木組み構造の仕口は、大きく「継ぎ手」と「組手」に分けられる。仕口は互いの材を極力傷めず、適材適所工夫が競われ、より力学にかなうものが継承された。

継ぎ手の仕事

足固めの墨付け

足固めとは、字の通り石場建ての柱脚を拘束する部材で、わが社では桧を使い、柱の曲げの力を発揮するために出来るだけ成の大きな材を使う。あまり足固めでは継ぎ手は少ないが、足固めで数カ所の継ぎ手があったので紹介する。

刻まれた足固め
金輪継ぎ(一枚目地)
金輪継ぎ(三枚目地)

材を継ぎ、複数の材を一本にしてから墨付けを行うことで、伸び縮みがなく精度がよくなる。

車知継ぎ
車知継ぎ

桁墨付け

桁とは、棟木と並行方向に延びる材で、外壁の上部で屋根の垂木を支える部材。下図は家の端から端まで、4本の材を継いで一本にするが、継ぎ手は前述の「金輪継ぎ」で、数ある継ぎ手の中では最も強固な継ぎ手だ。

桁材 桁行方向
複雑な形に加工された金輪継ぎ、目地を多くとる事で、痩せにくく狂いの少ない強固な継ぎ手になる。
精度よく墨をつけ、よく切れるのみで刻めば、一ミリの隙間もない継ぎ手が出来上がる。
繋ぎ合わせた状態で墨付けに掛かる

敷梁墨付け

敷梁とは、横架材で大きな梁。家の桁行方向の端から端まで延びる梁で、家の要で最も重要な部分で、人間に例えるのであれば背骨に当たる。本当なら一本の継ぎ手のない材を使いたいが十数メートルになるので、ここでは継いで納める。

台持ち継ぎのような仕口を作っていく
台持ち継ぎと金輪継ぎを融合させた継ぎ手
継いで一本の状態にして墨付けに掛かる

小屋梁継ぎ手

小屋梁とは桁に直交する部材で、母屋下の屋根を支える部材。この地域では松が使われることがほとんどだが、松の良材がないので、ここでは杉を使う。

梁の加工
台持ちで継がれた丸太
組まれた梁
下の梁が敷梁、上に乗る梁が小屋梁

組手の仕事

小屋梁(桁との取り合い)

軒桁と梁が交差する部分は、一般的に蟻落しで納め金物で締め込むのだが、わが社では金物は一切使わずに木を組み上げる。金物を使わないので仕口を強くするために仕口も複雑になる。

下図は、京呂蟻渡腮、渡腮蟻落とも呼ばれ、小屋梁の木口が軒裏に出るが構造上強い仕口。桁の内外に蟻を備え、その上渡腮の部分も蟻に仕事しているので桁が外へ広がらない細工もしている。一カ所の交差部分に蟻を3つも備えている。

小屋梁の仕口
梁の乗る部分
桁の仕口

柱と梁の組手

家の要は柱で、柱に水平部材が多く差さるほど、曲げの力を発揮し家の耐震能力は増してゆく。

墨をつけた柱。四方から部材が差さり、細かな情報が印される。
複雑に刻まれた柱。
柱がメスで梁がオス。
ホゾが柱を貫通し、車知で引き寄せ胴栓で固める。

柱と小屋束

柱と束、使われるところによって形は様々。貫や差し物が多いので柱の加工は複雑だ。

長く伸びた枘は組まれた梁を貫通し、梁のねじれを防止する。
家の主要柱。礎石まで下り、傷みやすいので桧の赤身部分を使う。
この束も長く伸び、梁のねじれを防ぐ。
チリしゃくりに土壁が食い込み、柱のチリが切れるのを防ぐ。

貫(ぬき)

貫とは、柱を貫通し横につなぐ部材で、柱の穴に差し込み、さらに楔を打ち込むことにより、枠組みをつくり構造を固めるとても重要な部材。歴史的には、鎌倉時代以降に貫は登場する。

角柱で組まれた貫
柱内部では合かぎで納まっている。
貫の仕口。鯖乃尾枘
柱も斜めに穴を掘り、貫を固定する。
貫のジョイントは柱の中で行う。ここでも形が少し違う、鯖乃尾枘を使う。
楔は棒楔
普通の楔より効きが大きい。柱から飛び出る部分が長いほど、地震時の傾きに対して、抵抗が多くなるので有効。

雇い枘・栓

雇い枘とは、仕口を作るための長さがない時や、組立時に組みやすいように使用する。枘や栓を使い柱と水平部材をしっかりと固定することで家の強度は上がる。その場所にあった方法で固定するので、仕口や枘のサイズは様々。

雇い枘
端栓
雇い枘各種。狂わないようにラップで養生。
使用する込栓だけでも600本以上。

破風板(はふいた)

破風板とは、屋根の母屋や桁の木口を風雨から守る部材で、屋根の耐用年数を延ばすにはなくてはならない部材。

組まれた部材を組んで状態でクレーンで釣り上げ、納めている。
屋根の曲がりに合わせた、曲りの桧丸太。
屋根のむくりに合わせて作られた型板を合わせ材を作る。
型とられた破風
拝み部分。もちろん金物は使わず、吸い付き桟と笄栓で引き寄せる
破風板は、風雨から材を守るのも大きな役割だが、家の装飾の役目も果たす。
破風板の寸法や形だけで家の雰囲気をがらりと変えてしまうので、重要な部材だ。

墨をつけ刻む

以上のように、墨をつけて家を建てるには、大工は相当な体力や頭を使う。こだわりとか簡単な言葉ではなく、家を末永く住み継ごうと考えるならば、材の背と腹を見極め適材適所に材を配置することが重要だ。住まい手が安心して住める家は、石場建てによる水平部材を多く組み込んだ伝統軸組工法の家と信じている。これからも伝統技術を次の世代に伝えながら家づくりに取り組みたい。

最後に、家が作られる順番を取りためた写真をつないだ動画を見て頂きたい。

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