伝統構法の家

伝統構法の家

日本の気候は雨量が多く、夏は高温多湿で四季ははっきりしていますが、他の地域に比べ比較的穏やかですが、地震や台風が多いのが大きな特徴です。西洋文化が入ってくる明治以前の建築は気候や自然災害にに対応するように工法は成長を遂げてきました。しかし、明治以降の建築は西欧建築家に指導されて以来、日本古来の伝統構法は否定され、現在の壁が主役になった建築が主流になりました。在来工法と伝統構法の一番の違いは、伝統構法は柱だけの架構と言えるほど柱の曲げ抵抗に頼る、開放的な空間がとれる構造です。伝統構法が優れているのは、法隆寺を代表するように、日本には800年以上耐えた木造建築が千棟以上も存在している事実があり、伝統構法の耐久性は歴史が証明してくれています。現在の日本の家の平均寿命は30年足らず。短寿命で使い終えた材がゴミにしかならない素材で作られています。さて、このままゴミにしかならない家づくりをしていて今後どうなるのでしょうか?この問題を解決するには、やはり、高耐久でゴミの少ない伝統構法の家づくりです。伝統構法にはっきりとした定義はありませんが、今の閉塞感のある日本を救ってくれる家の建て方だと信じていてます。私が思う伝統構法の定義は・・・

木組み

前述しましたが、伝統構法の最大の特徴が柱の曲げ抵抗に頼る構造でですが、伝統構法の家では、躯体の組立に金物は一切使いません。仕口には、コミ栓、端栓、楔、車知、割り楔等のいろいろな木栓を駆使し家を組み立てます。なぜ金物を使わないのかというと、木と鉄は収縮の仕方が違うため、仕口に金物をつけてもナットは必ず緩み、仕口はガタガタになります。また、冬場に結露をした場合、金物は露をよび錆び、その錆が木材に回り腐り早く家が朽ちます。一方で、木と木で組まれた家は、結露とは無縁で、それぞれの木が収縮や変形で「こぜ合って」強くなります。

石場建て

伝統構法の一番の特徴が「石場建て」礎石に延びた柱に足固めが差さり、その他に、差鴨居、通し貫、胴差し、桁固めなどの水平部材を組み込むことによって、柱を強く拘束し粘り強く柔軟な建物にします。足固めは8寸以上の材を使い、足元で柱の転倒を押さえます。石場建ては地面と緊結せず石の上に載せているだけなので、建物に地震の力が加わりにくい構造で、床下も明るく空気も流通するので、建物を致命的に食い荒らすシロアリの発生も抑えますが、万が一、柱が傷んだ場合でも根継ぎの方法で修繕が可能です。

伝統構法の架構
根継ぎされた柱に足固めが差さる

通し貫と土壁

近年の家に使われる貫と言えば5分(15mm)貫が当たり前の様に使われていますが、5分貫は土壁の小舞を掻く下地にしかならない。伝統構法の場合、壁に隠れる通し貫は8分~1寸を使います。分厚い貫を使う事で、通し貫も立派な構造の一部と考えます。貫の入った無開口の耐力壁は剛性が高いので地震力を負担します。

貫の入った耐力壁

構造となった貫に、小舞を掻き土壁をつけるわけですが、土壁も地震時には地震力の抵抗要素として働くので、固くなるようにひと手間加えます。それは発酵土です。粘りの多い赤土に藁を切り込むことにより発酵し、発酵すれば藁から溶け出たリグニンが糊の役割をし、溶かれた藁は髪の毛のように細かくなり、藁とリグニンが土と絡まることにより、土を粘り強く固くします。

1年以上寝かせた土壁


自然乾燥材

家の構造の要になる材が柱や梁、桁、母屋などの構造材です。100年以上家を支えるわけなので、油分の多い材を使いたい。近年の住宅は早く安くがもてはやされ、材木を乾燥させる期間をカットするために、化石燃料を使い高温乾燥させる手段が取られています。自然界にない温度で強制的に乾燥させるので、木の細胞は壊れ、木の重要な油分も飛んでいるので、もはや木ではない。伝統構法の場合、じっくりと自然に乾燥させます。杉の場合、屋外で雨に晒しアクを抜きながら、最低ひと夏越させます。じっくり乾燥させるのも重要な工程の一つです。

新建材は使わない

日本の住宅の平均寿命は、わずか30年足らず・・・しかも、使われる材料は、石油由来の物が多く、使い終えても産業廃棄物にしかなりません。伝統構法は、使い終えても自然に還る材を基本にしています。いぶし瓦は薬品を使わず焼成するので土に還ります。解体した土壁は新土と混ぜてやれば最高の土壁になり、構造材は別の建物に再利用し、その役目を全うしても、最終は暖を取るための燃料になります。

木と土でつくられた家は、住まい手が、安心して住むことができ、住みながら健康について考え生活し、建物が役目を終えた後でも、すべての材が次の役目を果たせるような材の使い方をし、次の世代に負の遺産を残さない、まさしく、売り手よし・買い手よし・世間よしの三方よしの家の建て方が伝統構法である。

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