伝統構法とは 第三章
石場建てとは
日本人が千年以上受け継いできた基礎の考え方
伝統構法を代表する技術の一つが、
「石場建て(いしばだて)」です。
現在ではほとんど見ることがなくなりましたが、
神社や寺院、
古民家、
町家など、
日本の歴史的建造物の多くは石場建てによって建てられてきました。
初めて石場建てを見る方は驚かれます。
「柱が石の上に乗っているだけなのですか?」
そう質問されることがよくあります。
確かに見た目だけを見ると、
柱はコンクリートに固定されているわけではありません。
礎石(そせき)と呼ばれる石の上に柱が据えられています。
しかし、
石場建ては単純に「柱を石の上へ置いているだけ」の工法ではありません。
建物全体の木組みが一体となり、
柱、
梁、
貫、
差鴨居、
足固めなどが互いに力を伝え合うことで、
建物として成立しています。
つまり、
石だけで建物を支えているのではなく、
木組み全体で建物を支えているのです。
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なぜ石の上に建てたのか
現代では、
住宅の基礎といえば鉄筋コンクリートが一般的です。
では、
なぜ昔の日本人は石を選んだのでしょうか。
理由の一つは、
木を長持ちさせるためです。
木が最も傷みやすい場所は、
地面に近い部分です。
地面から湿気を吸い、
雨水の影響を受け、
腐朽菌やシロアリの被害を受けやすくなります。
そこで先人たちは、
柱を直接土へ埋めるのではなく、
石の上へ据える方法を考えました。
石を介することで、
木が直接地面に触れません。
さらに床下へ風が通ることで、
湿気が抜けやすい環境が生まれます。
木にとって、
乾燥できる環境は何より重要です。
私は古民家の修理現場で、
築百年以上の柱を何度も見てきました。
床下の風通しが良い建物では、
驚くほど健全な木材が残っています。
逆に、
湿気がこもる建物ほど、
木は傷みやすくなります。
木を守るために、
石場建ては非常に合理的な工法だったのです。
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地震と石場建て
石場建てについて語るとき、
必ず話題になるのが地震です。
「石の上に乗っているだけでは危ないのではないか。」
そう思われる方も少なくありません。
しかし、日本は昔から世界有数の地震国です。
その日本で、石場建ては何百年も受け継がれてきました。
これは偶然ではありません。
伝統構法は、建物をできるだけ固めるという考え方ではなく、
建物全体で揺れを受け止め、
力を分散させるという思想のもとで発展してきました。
柱がわずかに動き、木組みが互いに力を受け渡しながら、
急激な力を逃がす。
このような考え方は、
現在では「柔構造」と呼ばれることがあります。
もちろん、
現代の耐震設計とは考え方が異なります。
そのため単純に優劣を比較することはできません。
しかし、
日本人は千年以上にわたり、
木と地震の付き合い方を考え続けてきました。
石場建ても、
その知恵の一つなのです。
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修理できるという価値
私が石場建てに魅力を感じる理由があります。
それは、
修理できることです。
もし柱の根元が傷んだ場合でも、
柱全体を交換する必要はありません。
「根継ぎ」
という伝統技術があります。
傷んだ部分だけを切り取り、
新しい木を継ぎ足すことで、
柱は再び何十年、
何百年と役目を果たします。
建物を壊すのではなく、
直しながら使い続ける。
この考え方は、
現代の大量消費社会とは対照的です。
家は消費するものではなく、
育てるもの。
私はそう考えています。
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床下は家の寿命を左右する
建物は見えない部分ほど重要です。
床下もその一つです。
現在の住宅では、
気密性が高く、
床下の換気は換気口や機械換気に頼ることが一般的です。
一方、
石場建てでは、
建物の下全体に自然な空気の流れが生まれます。
湿気が抜け、
木が乾きやすい。
もちろん、
地域や敷地条件によって環境は異なりますが、
木造建築にとって、
風通しは耐久性を考える上で欠かせない要素です。
私たちが古民家を調査するときも、
まず床下の状態を確認します。
そこには、
その家がどのような年月を過ごしてきたのかが現れています。
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石場建ては「昔の工法」ではない
石場建てを見ると、
「昔だからできた工法」
と思われることがあります。
しかし私はそうは思いません。
石場建ては、
自然と共に暮らすという思想から生まれた建築です。
木を乾かす。
修理しながら使う。
次の世代へ受け継ぐ。
その考え方は、
むしろ環境問題や資源循環が求められる現代だからこそ、
改めて価値を持つのではないでしょうか。
私は三十年以上、
木造建築に携わってきました。
古い家を解体し、
新しい家を建て、
そしてまた修理もしてきました。
その中で確信したことがあります。
本当に長く住める家とは、
壊さなくても直せる家です。
石場建ては、
そのための知恵が詰まった日本の建築文化なのです。
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